近年、クラウドや仮想化といった技術が進歩し、ネットワーク管理・運用のコストが増加傾向にあります。コスト削減を検討しているけれども、何から手をつけていいのかがわからないとお悩みの方も多いのではないでしょうか。この記事では、ネットワーク管理・運用における課題や現状と、具体的なコスト削減方法について詳しく解説します。
ネットワーク管理・運用における課題
2020年頃からはじまった新型コロナウイルス感染症の影響により、テレワークを導入する企業が急増しました。そこで、多くがVPN(Virtual Private Network)やクラウドサービスを導入して通信環境を整えましたが、端末数と通信量が増大し、ネットワーク遅延が多発しているのです。この問題に対しては、帯域幅を広くしたり、通信機器を最新のものに買い替えたりといった対策方法があります。しかし、どれも大きなコストがかかるため、二の足を踏む企業が多いのが現状です。
オフィスにおいても、クラウドや仮想化といった技術の普及により、ネットワークの複雑性が増してきています。利用する機器やサービスが増えるほど、担当者の業務負荷が大きくなり、監視や障害対応などの業務品質が低下します。結果、ミスが発生して工数とコストが増加し、さらにミスが発生するといった負のサイクルに陥りかねません。
ネットワーク管理・運用における企業の現状
株式会社J.D. パワー ジャパンが2022年に実施した調査によると、ネットワーク環境における今後の課題として、「ネットワークコストの削減」と回答した企業は、大企業で36%、中堅・中小企業で30%と報告しています。
出典:株式会社J.D. パワー ジャパン「J.D. パワー 2022年法人向けネットワークサービス顧客満足度調査」
また、「ネットワークの高速化・広帯域化」と答えた企業は、大企業で41%、中小企業で31%です。このことから、ネットワークの運用・管理に頭を悩ませる企業が非常に多いことがわかります。
ネットワーク管理・運用にかかるコストの内訳
ネットワーク管理・運用にかかるコストには、大きく「機器・回線費用」「人件費」「管理費」の3種類があります。それぞれの詳細は、以下の通りです。
【機器・回線費用】
・LANの構成機器/ネットワークの構築費用/利用料金
(PC、サーバー、無線・有線LAN、ルーター、スイッチングハブなど)
・WANの利用料金
・インターネット回線の利用料金
【人件費】
・従業員(情報システム部門)へ支払う給料
・外部委託の企業や個人へ支払う外注費
【管理費】
・ネットワーク監視ツール等、業務システムの利用料金
特に、社内ネットワークを再構築するための費用や、ネットワークを維持するためにかかる人件費が高額になりがちです。
ネットワーク管理・運用のコスト削減を実現する方法
ネットワーク管理や運用にかかるコストを削減するには、どのような方法を採用すればいいのでしょうか?以下では、3つの手法を紹介します。
1.外部の運用管理サービス・ツールを導入する
ネットワーク管理・運用業務をアウトソースすることで、業務品質が向上し、コスト削減につながります。例えば、以下のような業務を実施してくれます。
- IT資産の可視化
- ネットワーク監視・診断
- ヘルプデスク
- 障害復旧 など
主に、特定領域をカバーする担当者がいなかったり、慢性的な人材不足に陥っていたりする場合におすすめです。ほかにも、ネットワーク監視ツールや構成管理ツール等、業務効率化につながる製品を導入することで、生産性が向上し、コスト削減につながります。
2.SDNを導入する
SDN(Software Defined Networking)とは、ソフトウェアを使ってネットワークを管理する技術のことです。具体的には、社内LANやデータセンター内の機器設定を、SDNコントローラを用いて一括で制御します。従来は、ネットワーク構成を変えようと思ったときに、社内のルーターやスイッチングハブ、ファイアウォールなど、機器やソフトウェアを一つひとつ操作・設定する必要がありました。SDNを使えば、これらの設定をまとめて行うことが可能です。
3.SD-WANを導入する
SD-WAN(Software Defined – Wide Area Network)とは、WANを一つのソフトウェアで管理する仕組みや技術のことです。先述したSDNは、LANやデータセンター内のみの仮想化に限られるのに対し、SD-WANは、仮想化の範囲をWANにまで拡張することが可能です。これにより、一拠点内の機器だけでなく、複数拠点間のネットワーク機器までも一括で設定・変更できるようになります。各拠点に担当者を配置したり、機器設定のために技術者を派遣したりする必要がなくなるため、人件費の削減につながるのです。
またSD-WANは、物理ネットワークに加え、論理ネットワークを用いて通信負荷を分散する仕組みを採用しています。バックアップ用の高価な専用線や閉域網から、安価なインターネット回線へ切り替えて通信が行えるため、回線コストの削減が期待できます。
SD-WANで削減できるコスト
SD-WANを導入することにより、どのようにコスト削減を実現できるのでしょうか?以下では、具体例を挙げながら分かりやすく解説します。
回線の運用コスト
自社が専用線や閉域網をバックアップ回線として眠らせている場合、SD-WANを採用してインターネット回線へ切り替えることで、運用コストを大幅に削減できます。これは、特定の通信のみを別回線で行う「インターネットブレイクアウト」と呼ばれる仕組みを用いているからです。従来、バックアップ用の回線は、メインの回線で障害が起こらない限りは使用しないのが一般的でした。対してSD-WANでは、メイン回線である物理ネットワークと、負荷分散のために用いる論理ネットワークの2種類を使用します。
例えば、秘匿性の高い通信をメインの物理ネットワークで行い、Web会議など負荷のかかる通信のみをインターネット回線へ流し、通信の経路を分散させます。高価な専用線や閉域網から、SD-WANのインターネット回線へ切り替えることで、負荷分散と大幅なコスト削減が実現可能です。
人件費
自社のネットワーク構成を一括で変更する際、通常であれば大きな工数がかかります。SDN等の管理ツールを使わない場合は、機器と拠点の数だけ、SDNを導入している場合は、拠点の数だけ人員と時間が必要です。一方でSD-WANであれば、1つのソフトウェアから全拠点・機器の設定を一括で行えるため、わずかな時間で完了させられます。
【ネットワーク構成の変更にかかる時間】
・何もしていない場合:機器数×設定時間×拠点数
・SDN:設定時間×拠点数
・SD-WAN:設定時間のみ
企業が所有する機器数や拠点数が多ければ多いほど、時間削減効果が大きくなります。各拠点に情報システム担当者を配置する必要がなくなったり、トラブル発生時に現地へ赴く必要がなくなったりするため、人件費を大きく削減することが可能です。
ネットワークコストを削減して、効率的な運用を目指そう
この記事では、ネットワーク管理・運用コストの課題や現状、削減方法について解説しました。ネットワークを含めたITの世界は日進月歩で、これからも運用が複雑化していくことが予想されます。それに伴い、新しい管理・運用のソリューションが登場してきています。ネットワークコストでお悩みの方は、新しい技術「SD-WAN」の活用をご検討されてみてはいかがでしょうか。ぜひこの記事を参考にして、自社のネットワーク管理を見直すきっかけにしてみてください。
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