デジタル活用や会社の多拠点化が進む中で、多くの企業が検討・実践しているのがSD-WANの導入です。社内でネットワークを一元管理できる体制を整えることで、コスト削減やセキュリティ強化などのメリットが期待できます。今回は、SD-WANの導入によって具体的にどんな成果が得られるのかを、実際の導入事例を参考にしながら確認していきましょう。
SD-WANについて
SD-WANはSoftware-defined Wide Area Networkの略称で、社内WANを一元管理するためのシステムです。物理的なルーターを拠点ごとに設置する必要がなくなり、一箇所にあるハードウェア経由で仮想ネットワークを構築し、全ての拠点のWANをまとめて管理可能です。
機器を使ってネットワークを維持するのではなく、ソフトを使って保守管理を行い、従来よりも便利かつ安心して利用できる環境へと移行できるのが強みです。
SD-WANが求められる背景
多くの企業でSD-WANの導入が進んでいる背景として、以下の3つの理由が挙げられます。
業務のデジタル化(クラウド活用)
1つ目の背景は、業務のデジタル化です。業務の多くを新たに導入したITツールを活用して遂行することで、生産性の向上や効率の改善が期待できますが、中でも注目を集めているのがクラウドサービスです。
インターネット経由で利用できるクラウドサービスは、オンプレミスのソフトと変わらない性能でありながら、導入のしやすさや初期費用が安価であることから、大企業はもちろん中小企業でも愛用されています。
クラウドサービス利用の留意点として、ユーザーは必ずインターネットに接続していなければならないという条件がありますが、SD-WANを導入することにより、回線負担を過度に心配することなく運用可能になります。
働き方改革やグローバル化に伴う多拠点企業の登場
2つ目の背景は、働き方改革です。多くの企業でリモートワークやフレックス出社などの制度が採用されていますが、これらの実施には業務遂行を円滑にするための体制づくりが欠かせません。
SD-WANを導入し、他の拠点でも本社と同様のネット環境が実現することで、安心安全な業務環境を利用できます。また、グローバル市場への参入をスタートする企業も日本企業から現れ始めていますが、海外に拠点を設置する際も、SD-WANを活用して拠点機能を充実することで、現地まで保守管理のために人材を派遣する必要もなくなります。
人材不足
3つ目の背景は、人材不足です。多くの拠点を有する企業の場合、各拠点の保守管理のためのエンジニアを確保しなければなりませんが、国内全体で人材不足が進んでいることで、こういった保守人材の確保が困難になっています。企業の収益に直結しない業務でもあるため、できる限り小さなコストでこういった業務負担は削減したいのが多くの企業の本音です。
SD-WAN導入のメリット
上記のような課題を解決する上で、SD-WANは大きな成果が期待できます。SD-WAN導入のメリットについて、ここで確認しておきましょう。
インターネットブレイクアウトの実現
SD-WAN導入の最大のメリットは、インターネットブレイクアウトの実現です。インターネットブレイクアウトは、特定のクラウドサービスに対してインターネットを介さず、直接アクセスができる仕組みです。
自社で利用しているクラウドへの直通回線が開けるため、インターネットを経由するよりも高速かつ安定した環境で利用が可能となります。
ネットワーク管理の効率化
SD-WANを導入することで、社内のネットワーク管理を本社からまとめて行えるようになります。これまでは各拠点ごとの管理が必要だったところを一元化できるので、拠点数が多く対応に困っていた組織にとってはありがたいメリットとなります。
保守管理コストの削減
ネットワーク構築や維持管理のために現場へ担当者を派遣、あるいは常駐させる必要がなくなるので、保守管理に伴う人件費の削減に繋がります。
保守管理が全く不要になるわけではありませんが、本社に最小限の人員を配置するだけでよくなるので、これまで人件費が圧迫していた場合には嬉しいメリットです。
セキュリティの強化
SD-WAN経由でのネット利用により、公共のインターネットへアクセスする機会を減らすことで、不正アクセスや情報流出のリスクを小さく抑えられます。
トラブル発生の際にも現場に赴く必要がなくなり、一箇所からトラブルの特定と解消に勤めるだけで良くなるのがポイントです。
SD-WAN導入の主な事例
ここで、国内企業におけるSD-WAN導入の主な事例について見ていきましょう。
株式会社朝日新聞社
マスメディア企業である朝日新聞社では、SD-WANの導入によってクラウドサービスの活用に伴うネットワーク負担の軽減に成功しています。
動画コンテンツ利用の拡大やクラウドサービスの導入に伴い、社内からインターネットへの出口の混雑が顕著になっていった同社では、トラフィックの集中を回避する必要がありました。
SD-WANを導入したことにより、同社では調査の結果70%の社員がネットワークパフォーマンスの向上に納得していると回答しており、現場にとって必要な改善結果が得られたことがわかりました。また、SD-WAN導入に伴いルーターの冗長性も向上し、ネットワークの耐障害性においても改善が見られました。
参考:https://www.nissho-ele.co.jp/product/cisco_sdwan/casestudy/asahi-shimbun
三星ダイヤモンド工業株式会社
メーカー企業の三星ダイヤモンド工業では、国内外の工場を結ぶWAN環境を構築することで、現場に依拠しないICT環境のフラット化に成功しています。
同社では早期から事業のグローバル化を推進してきましたが、一方で問題となっていたのが通信コストの問題です。海外工場を含めるとその通信コストは高止まりしており、どうにかして費用の削減に努める必要があったのと、ICT環境を整備して事業の継続性を確保し、グローバル事業に安定感をもたらすことが課題とされていました。
このような課題解決に役立ったのがSD-WANで、拠点間の通信費や機器の保守費、減価償却費などの運用コストを67%も削減することに成功しています。また、リアルタイムで接続状況や帯域を可視化できる仕組みを整備したことで、運用管理に伴う負担軽減にも貢献しています。
参考:https://juku-jp.vmware.com/casestudy/mitsuboshidiamond/
マルコメ株式会社
食品メーカーのマルコメでは、テレワーク導入に伴うトラフィックの増加に対応するため、SD-WANの導入を実現した会社です。
SD-WANのインターネットブレイクアウト機能を利用することで、Web会議システムを使った日々の業務に伴う余計なトラフィック負担の軽減を進めるとともに、東西で異なっていたネットワークの統合も進め、保守運用を最適化しました。この結果、社内におけるクラウドサービス利用の更なる推進につながり、クラウドによる工場管理の実践など、新しい効率化プロジェクトも次々と展開されています。
参考:https://business.ntt-east.co.jp/case/2022/n002/
SD-WAN導入の際に検討すべきポイント
SD-WAN導入は、多くのメリットを企業にもたらしてくれることから期待値の高い施策であると言えます。最後にSD-WAN導入に向けて検討すべきポイントについて、ご紹介します。
SD-WAN導入で解消したい課題を洗い出す
1つ目のポイントは、導入によって解消したい課題の洗い出しです。SD-WANはただ導入すれば無条件で課題を解決できるものではなく、特定の課題に対して効果を発揮する取り組みです。
SD-WANの特性を理解し、解決につながりそうな問題を抱えているかどうか、一度洗い出してみると良いでしょう。
SD-WAN導入で実現したい新しい取り組みを検討する
2つ目のポイントは、SD-WAN導入でどんな施策にトライできるかを考えることです。クラウドサービスの導入や、社内システムの刷新など、SD-WANによって現状の課題を解決するだけでなく、どんなチャレンジにつながるかも考えることで、最大限にメリットを活用できます。
まとめ
本記事では、SD-WANの導入事例を参考にしながら、導入のメリットや期待される役割についてご紹介しました。クラウドサービスや動画コンテンツのような、トラフィック負担の大きいネット利用が増える中では、ネット環境の刷新は不可欠と言えます。
まずは社内のインターネット利用における課題を洗い出し、どのような問題が発生しているのか、その原因はどのような点にあるのかについて、リストアップしてみると良いでしょう。
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