2022年の今となっては37億円の市場規模を記録し、これからも大幅な成長が見込まれているSD-WAN(Software Defined Network)。IDCによると、今後も成長が見込まれ、2025年には223億円を超える規模になるとの予測も発表されています。SD-WANを利用することで、WANの可視化や管理効率などさまざまなメリットを得ることができます。
しかし、ネットワークの変更となると、長時間システム停止が伴う場合もあり、そのためにビジネスに与える影響も大きいため、積極的に検討したいと考える一方で慎重な判断が必要となるポイントも持ち合わせています。
今回は、SD-WANを導入した場合に必要な費用に着目し、既存のネットワーク運用に必要な費用と比べながら、導入と運用に分けて解説します。
1.SD-WANを利用する際の費用
新しいシステムを導入する時は、導入後に継続利用するための費用と、まず導入するための費用が必要となります。導入時には必要な構成要素をすべて準備する必要があるため、まとまった費用が必要になることが一般的です。そこで、まずは、SD-WANを導入し利用するにあたり知っておくべき費用の種類を紹介します。
1-1.導入に必要な費用
SD-WANを導入する際には、まず初期費用が必要です。導入に必要な費用は、現行システムの規模や構成、また、どのように移行するかによって変わってきます。多くの企業ではすでにネットワークシステムが導入され実際に運用されているはずですので、SD-WANを導入する時は、現行システムから新SD-WANシステムへ通信経路を変更することになります。導入費用は一般的に一度のみかかります。
導入の流れはベンダーや企業によってそれぞれ違いますが、一般的な方法としては以下の3ステップになります。
➀初期検討
SD-WANとはどのようなものか、実現可能なことはどのようなことであるか、どのような課題があるのかなどいくつもの観点から調査し、現行のネットワークにある課題が解決されるのかどうか、なにが最低限必要な要件なのかを検討します。
②設計/構築
検討結果をベースに最適な構成や設定値を設計し、実際に導入します。導入の最終段階では、あらゆるシナリオを準備して障害テストを行ったり、正常な状態での通信速度を計測したりと必要なデータ収集を行います。
③切り替え
現行ネットワークから新ネットワークに通信経路を変更します。切り替える際には、SD-WANを利用する環境を新たに構築した状態で移行する方法と、既存ネットワークのある環境の中にSD-WANを最初から引き込み、段階的に移行していく方法の2つがあります。一般的には、後者の方法で移行したほうが、新旧両環境を利用する期間が短くなるので、維持費用が少なくなること加えて、段階的に移行を実施することができます。一方で、前者の方法で移行すると作業がシンプルになるという利点があるため、予算やユーザへの影響を考慮したうえで慎重に検討する必要があります。
1-2.運用に必要な費用
SD-WANを導入することができたら、運用段階に入ります。運用費用はSD-WANのシステムを利用する限り継続的に発生します。まず、SD-WAN設備利用費用です。利用費用は、クラウドサービスを利用するのか、オンプレミスを中心にSD-WANを展開するのかで大きな違いが生じることがあります。クラウドサービスを利用する場合には、提供会社に対して月額でサービス費用を支払います。オンプレミスを中心に展開する場合には、データセンターに機器を設置するためのラックレンタル費用や電気代がかかることになります。
また、サービスや設備の利用費だけではなく、自社内で管理する場合では運用工数についても考慮が必要となります。ユーザからの問い合わせに対する対応や新規セグメントの払い出し、ネットワークの利用状況の監視などあらゆるタスクが存在します。既存のシステム運用にかかっている費用との差分を含めて予算として考慮する必要があります。ユーザの問い合わせ対応は、運用が開始するとノウハウが溜まるため、時間の経過とともに必要となる工数と費用は減少していく傾向にあります。
さらに、新規でSD-WANを利用する場合には、運用担当者が運用作業に必要な技術が身に付くようなトレーニングを受ける必要があります。特にネットワークというのは24時間サービス提供をする必要がある場合があるため、計画を立てて、必要な運用担当者を揃えることが大切です。SD-WANは比較的新しい技術であるため、経験豊富な人材を見つけることは難しいため導入した初期段階ではトレーニング期間を長めに設定するなど工夫することも必要です。また、障害が発生した場合には通常の運用工数よりもより多くの工数が必要になってしまうことがあります。そのため、あらかじめ余裕を持って予算を確保しておくことが必要になります。
2. SD-WAN導入に伴い不要になるコスト
SD-WANを導入することで不要になる費用もあります。それまで使用していたネットワーク設備を運用するために必要な維持費用については、移行が完全に終了し、旧ネットワーク設備を撤去した後は一切費用がかからなくなります。大半のケースではオフィスやデータセンターにネットワーク機器が設置されており、データセンターの設置にはラックを設置するレンタル費用が毎月必要です。自社のネットワークの規模によって維持費の差に違いはありますが、一般的には規模の大きなシステムのほうが、SD-WANに移行した際の維持費の違いは大きくなります。
さらに、運用のための費用も不要になります。つまり、SD-WANを利用することによって運用コストを削減することができるならば、継続的にそのメリットを受けることができる、というわけです。SD-WANではネットワークを一箇所で集中管理するため、これまでのように各拠点に出向いて設定変更作業をする必要もなくなり、運用工数の削減が可能になります。昨今のサービスではAPIが準備されているケースが多くあるため、簡単なスクリプトを記述すれば単純な作業は人間の手を介さずに自動化することもできるようになりました。そうすることで作業そのものの工数だけでなく、必要な人的要員を削減することもでき、費用だけでなく担当者の負担も減らすことができます。また、作業自体が簡単になることで、通信経路や通信制御を柔軟に制御できるようになります。
3. SD-WAN導入に伴い必要になるコスト
SD-WANを導入することにかかる新たな費用としては、SD-WAN設備の利用料と運用コストが挙げられます。SD-WAN設備の利用料は、クラウドを利用することである程度抑えることが可能です。クラウドを利用した場合に発生するのはクラウドサービス利用料のみで、物理的な機材を購入するといった費用削減できることに加えて、データセンターのラックをレンタルしたり現地に技術員を出張させるといった費用がなくなります。
導入するということは事前検討での決定事項をもとに設計・構築をする必要があります。現行システムからの変更の場合には現行システムを踏襲できる部分もあるため、フルスクラッチで設計することに比べると費用を抑えることができます。また、詳しくは後ほど説明しますが、SD-WANでは複数の回線を一元管理することができ、トラフィックの制御を柔軟に変更することが可能です。これまでのネットワークの設計作業と比べると、後での変更が容易であるため、設計にかける時間を削減することもできます。
追加の運用コストとしては、毎日のユーザ対応やトラブル対応があります。SD-WANの特徴の一つに、集中管理があり、各拠点の機器は物理的に結線されていれば、管理コンソールからリモートで設定を変更することが可能です。各種設定変更やトラブル対応を一箇所で行うことができるため、必要な人的リソースも減少し、作業工数自体も減少します。また、SD-WANを継続的に利用するあたってはライフサイクルの運用におけるコストも考慮する必要があります。物理的なネットワークシステムの場合は、経年劣化した機器をリプレイスする作業や、組織の編成に伴う大幅な設計変更が必要になるかもしれません。SD-WANを使っていれば、従来のネットワークに比べてとても少ない工数で設定変更が可能になります。
4.回線利用のコスト
SD-WANを利用することで回線の管理を一元化することができ、複数回線を仮想的に1つの回線のように扱うことが可能です。そのため、今の環境に必要な帯域を最適化することができますし、これまで既存ネットワークではあまり使用していなかった帯域を解約することでコスト削減にもつながります。また、回線の種別に関わらずトラフィックの通信品質を安定化させることもできます。
現在はAWSやMicrosoft Azure、MS365などをはじめとするクラウドサービスを利用する企業が増えてきました。従来のネットワークでは、全通信を自社の管理下に置く必要があったため、各拠点からの通信を自社で管理しているデータセンター経由にして、そこからインターネットへ出ていく必要がありました。しかし、SD-WANでは各拠点から直接インターネットに出ることが可能な経路を作ったとしてもトラフィック全体を自社の管理下に置くことが可能です。そうすることで、データセンターで利用していた回線の帯域を各拠点に配分したり、時間帯によって必要な帯域をデータセンター側の特定のサービスに配分したりと柔軟で効率的な運用も可能です。このような結果、回線利用に必要なコストも最小限に抑えることが可能になります。
5.【まとめ】「SD-WAN」気になる費用は?導入と運用に必要なコスト
いかがでしたでしょうか?本記事ではSD-WANの費用について説明してきました。導入する時には、運用コストやトレーニングなどの大きな予算が必要となります。また、現行システムから変更するためにプロジェクトを発足させる必要もあるでしょう。しかし、SD-WANを利用することで最新技術を組み合わせてできた信頼のおけるシステムを運用することができ、かつ管理の一元化や利用回線の効率化など運用に必要なコストを抑えることも可能です。既存のシステムは実績も多く、安心感が高いのが利点ではあるのですが、運用コストを考えると障害対応なども含めると大きな工数が必要なってしまいます。そこでぜひ、ネットワークの最新技術である、SD-WANの利用を検討してみてください。
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