オフィスで各種ツールを利用していると、以前よりもパフォーマンスが落ちたと感じる機会が増えた場合、社内全体でネットワークの遅延が発生しているかもしれません。
働き方改革の影響もあり、インターネットを利用する機会が以前よりも増えている企業は多く、自社の回線を見直す動きも各社で活発になっています。今回は、そんな社内ネットワークのパフォーマンス低下に悩んでいる方に向けて、ネットワーク遅延の主な原因や、効果的な解決方法について、解説します。
遅延をもたらす「ネットワーク輻輳」について
オフィスでのネットワーク遅延が見られた場合、原因と考えられるのが「ネットワーク輻輳」と呼ばれる現象です。ネットワーク輻輳は、いわゆるアクセス集中による回線速度の低下を指すものです。
ネットワーク輻輳は、一般に提供されているWebサービスなどで多々見られる現象です。例えば新商品が発売された時のECサイトや、大規模な災害が発生した際のニュースサイトでは、一時的に画面の表示が大幅に遅れたり、サーバーにアクセスできない障害が発生したりすることがあります。これらはいずれもそのサービスを利用する上で想定していない、キャパシティをはるかに超えたアクセスによる、ネットワーク輻輳が発生しているために起こる障害です。
社内ネットワークにおいても、このネットワーク輻輳が発生する要因は様々あります。また、近年はインターネットの利用機会が増えていることから、ネットワーク輻輳による遅延が発生するリスクが増加傾向にある問題も現れています。
ネットワーク遅延が頻発する背景
では、ネットワーク輻輳のような遅延現象の発生が頻発するようになったのには、どのような背景があるのでしょうか。ネットワーク遅延の最大の原因として挙げられるのは、クラウドサービスの利用です。クラウドサービスは従来のシステムとは異なり、インターネットを介してアプリや開発ツールを利用するサービスです。そのため、サービスの利用のためには常にオンラインに接続していることが一般的であり、利用に当たっては多くの通信量が発生します。少人数のクラウド利用であれば大きな影響はありませんが、近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)需要の高まりに伴い、全社的なクラウド導入を進める企業も増えつつあります。
業務のクラウド化は生産性向上やテレワークの促進に役立つ一方、社内ネットワークへの負荷も大きくなります。社内のデータセンターを介してインターネットに接続する方式を採用している場合、全社的なクラウド利用は、従来よりもはるかに大きな負荷を与え、パフォーマンスの低下を引き起こします。
社内ネットワークの遅延を解消するための対策方法
このようなネットワーク遅延の問題があることから、クラウドサービスの恩恵を100%受けられないケースが各社で問題となっています。クラウド導入に際しては、遅延解消の対策を施した上で推進していく必要があるでしょう。社内ネットワークの遅延を解消するための対策として、ポピュラーなものに回線契約の内容を見直すという方法が挙げられます。一般的に普及している回線契約はベストエフォート型と呼ばれるもので、安価に契約ができるものの、回線が集中する時間帯はパフォーマンスが低下しやすいのがデメリットです。回線の安定化を図る場合、帯域保証型に切り替える方法があります。帯域保証型は、その名の通りどのような時間帯でも同じ回線速度を維持してくれるというもので、混雑状況に関係なく常に一定のパフォーマンスでクラウドサービスなどを利用できます。
また、単純に老朽化したルーターなどのハードウェアを、新しいものに交換することも必要です。クラウドサービスの利用や業務のデジタル化によるデータ量の増大は、従来のルーターでは対処できないケースもあり、各種機器を刷新するだけで遅延が改善する場合もあります。
そして近年注目を集めているのが、SD-WANを社内に導入し、ネットワーク接続環境を整理するという方法です。SD-WANはWAN(広域通信網)をソフトウェアで管理する技術で、トラフィック状況に応じて振り分けを個別にコントロールできます 。複数拠点で社内ネットワークを利用する場合、従来は各拠点ごとにネットワーク設定を行う必要がありました。しかしSD-WANを導入するだけで、ネットワーク設定は本社で一元的に管理できるため、現場まで足を運んで設定をする必要はなくなります。
SD-WAN導入のネットワーク遅延への効果
SD-WAN導入は業務効率化の面から注目されることの多い技術ですが、ネットワーク遅延の解消にも効果を発揮します。SD-WANはクラウドサービスやWeb会議ツールなど、トラフィックを圧迫しやすいサービスを利用する際、社内データセンターではなく各拠点に引き込んでいるインターネットへ直接接続する設定に変更できます。
従来のネット利用のプロセスは、いかなる拠点も一度社内データセンターに接続の上、データセンターのファイヤウォールなどを咬ませてインターネットにアクセスしていました。しかしSD-WANはアプリごとにデータセンターに接続するか、直接インターネットに接続するかを設定でき、効率的なネットワーク利用を実現します。
その結果、トラフィックを圧迫するサービスが社内データセンターを介することはなくなり、クラウドサービスを快適に利用できるのはもちろん、他のツール利用などにおいても遅延を感じることはなくなります。
インターネットに直接接続するためのバイパスを新たに設置する必要はあるものの、既存回線の強化をする必要がないので、効率的な方法と言えるでしょう。
SD-WAN導入のメリット
SD-WAN導入のメリットは、やはりコストパフォーマンスに優れる点です。拠点数が多ければ多いほど、既存回線を強化するとなれば工事費用や維持費用が増大してしまいますが、SD-WAN導入であればそれよりも安価に回線問題を解消可能です。小規模な拠点でも導入しやすく、ルーターの設置・設定なども必要ないため、システム部門の人材が不足している場合も、維持管理コストを抑えられます。
また、SD-WANはトラフィック状況をリアルタイムで監視できる体制も整備できるのが強みです。トラフィックが増えてきた場合、事前にそのことを察知し、遅延やサーバーダウンなどの障害を回避できるため、パフォーマンスの安定化に貢献します。
メリットを最大限活かすためのSD-WAN導入のポイント
SD-WAN導入を検討している場合、まず気をつけるべき点がセキュリティの拡充です。SD-WANを使った直接的なインターネット利用は、社内データセンターのセキュリティを活用することができなくなるため、拠点ごとのセキュリティ対策が必要になります。
そのためセキュリティコストが通信費用とは別途発生しますが、近年はサイバー犯罪のリスクが増大していることもあり、セキュリティの強化はSD-WANの導入がなくとも必須です。この点についてはSD-WANだから必要なコストというわけではないため、誤解がないようにしましょう。
また、SD-WANの導入は多拠点であるほど効果が大きくなりますが、拠点数が少ない場合は、現在の回線を強化した方がコスト面では優秀な場合もあります。あらかじめ見積もりを立て、最適な選択肢を選びましょう。
まとめ
社内ネットワーク遅延が深刻化すると、デジタル化によって得られるはずの恩恵を十分に受けられず、期待していたような業務効率化が実感できなくなってしまいます。そんな時に見直したいのが回線状況で、特にSD-WANの導入は多拠点で事業を展開している企業にとっては、大きなコストパフォーマンスを実現します。
社内のネットワーク環境を見直し、SD-WAN導入によってどれくらいのメリットが得られそうか、一度検討してみることをおすすめします。
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